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2024年3月
13ヵ月間の出来事の振り返りレポート

Report:Makoto Inoue

第64次隊の井上 誠氏が13ヵ月間の出来事を振り返り、レポートをくれました。

井上氏レポート

振り返りレポート

私は2022年12月末から2024年2月上旬まで南極の昭和基地で活動してきました。この13ヵ月間の出来事を振り返りレポートしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
今回の記事は日本から南極までの道のりについてお話ししたいと思います。

しらせに乗船する直前の様子

しらせに乗船する直前の様子


2022年11月11日、私たち64次隊を乗せた南極観測船しらせは、多くの関係者に見守られながら日本を出発しました。

見送りに応えて帽子を振る観測隊員

見送りに応えて帽子を振る観測隊員


私たちの隊次もコロナの影響を受け、1週間の隔離生活のあと日本からの出発を余儀なくされましたが、このように多くの人に見送られながら出発できたことはとても幸運なことだったと思います。

しらせの生活は朝6時の「総員起こし」(起床)の放送から始まり、朝6時、昼11時、夜17時に食事をとります。金曜日はカレーというのは有名な話だと思いますが、その他にも朝食でパンやシリアルを選べる日やステーキの日があり、曜日感覚が曖昧になりがちな船上生活での助けとなりました。お風呂の時間は比較的自由でしたが、昭和基地の生活を模擬して遅くとも24時までに入ることや節水することが徹底されました。
船内には様々な施設があり、比較的自由に利用できます。甲板での艦上体育、ジムの利用、艦橋(ブリッジ)への立ち入り、06甲板と呼ばれる場所では天体観測を楽しむこともできました。

甲板から見る満天の星空

甲板から見る満天の星空


日中は各隊員が講師となり講義を行います。過去に南極で起きた事故事例からその原因と対策を議論するワークショップやヘリコプターの搭乗方法、昭和基地における廃棄物の分別、無線の使い方など、昭和基地での日常生活や野外活動で必要になることを学びます。

観測隊の活動を紹介する しらせ大学

観測隊の活動を紹介する しらせ大学


出発から2週間、オーストラリアのフリーマントルに到着しました。6日間かけて生鮮食品やヘリコプターなどの積み込みが行われます。私たちはコロナ対策の一環でフリーマントルに下船することができませんでしたが、船内にWi-Fiルータが設置されたことで、久々に家族や友人と連絡を取ることができました。航行中はインターネット環境がないため、改めてネットワークの有難さが身に沁みた瞬間でした。

オーストラリアを離れるとすぐに暴風圏へと突入します。たちまち波は荒々しくなり、船酔いに苦しむ隊員が続出します。64次隊の往路は特に揺れが激しく、2代目しらせ(※)史上最大の30度の傾きを記録したそうです。
※初代しらせは1982~2008年運用、2代目しらせは2009~現在にかけて運用中

傾く水平線

傾く水平線


出航から27日目、南緯60°を通過し、いよいよ南極海へと突入します。ここからしらせは西へ舵を取りますが、高緯度にあるため経線の間隔が狭く、連日時刻帯が変更されます。時刻帯が変更される日は1日が25時間になりますが、しらせ船内の時計は自動調整されるため、時計の長針と短針が反時計に回る不思議な光景を目にすることができました。最終的には日本との時差がマイナス6時間になります。

この海域では荒波を正面から受けるため、これまでの横揺れ(ローリング)から一変し縦揺れ(ピッチング)になります。しらせが大波に乗り上げるたびに遊園地のアトラクションのように激しく揺れ、艦橋の高さまで水しぶきが上がる光景は圧巻でした。

大きな水しぶきを上げるしらせ

大きな水しぶきを上げるしらせ


更に南極大陸に近づくと海面が流氷で覆われる乱氷帯へと突入します。しらせが氷に阻まれて前進できなくなりますが、勢いをつけて砕氷しながら進むラミング航行を行い徐々に前進していきます。

昭和基地周辺の海氷を進む様子を見守る隊員

昭和基地周辺の海氷を進む様子を見守る隊員


昭和基地がある東オングル島に接岸すると、ここからはヘリコプターで基地まで向かいます。5分程度のフライトですが、夢にまで見た昭和基地に着くと思うと胸が高鳴りました。

しらせ乗員に見送られながら昭和基地に向かう

しらせ乗員に見送られながら昭和基地に向かう


昭和基地に到着すると前年から越冬していた63次隊員がヘリポートまでお出迎えに来てくれました。延べ41日間、約14,000kmにも及ぶ長い旅路でしたが、その間には赤道祭やレイテ沖慰霊祭などの海上自衛隊の伝統的なイベントに参加したり、しらせ船上での観測や海洋観測を見学したりと、特別な経験ができました。

昭和基地の看板

昭和基地の看板


※ 掲載協力:国立極地研究所