ステークホルダー・ダイアログ 2020

NECネッツエスアイグループが果たす社会的責任についてご紹介します

ステークホルダー・ダイアログ

2020年ダイアログの概要

当社は2030年に向けて「コミュニケーションで創る包括的で持続可能な社会」を目指し、マテリアリティ(詳細はこちら)を軸にさまざまな取り組みを実行していこうとしています。その中でも、「一人ひとりが活き活きと輝く環境づくり」、従業員にとってのwell-beingの向上に特に力を入れようとしています。幸福学の第一人者である前野隆司氏をお招きし、当社代表取締役社長の牛島と幸せと働く人、社会、企業、経営との関係などについて対話を行いました。

実施日 2020年11月10日
場所  NECネッツエスアイ 飯田橋本社
出席者
  • 社外有識者
       前野隆司氏
        慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
        慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長

    (前野氏プロフィール)
    1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりSDM研究科教授。2011年4月から2019年9月までSDM研究科委員長。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。

    著書
    「脳はなぜ「心」を作ったのか」(筑摩書房、2004)
    「錯覚する脳—「おいしい」も「痛い」も幻想だった」(筑摩書房、2007)
    「脳の中の「私」はなぜ見つからないのか—ロボティクス研究者が見た脳と心の思想史」(技術評論社、2007)
    「思考脳力のつくり方—仕事と人生を革新する四つの思考法」(角川書店、2010)
    電子書籍AiR(エア)(平安デジャブ──抱擁国家、日本の未来)(電気本、2010)
    「脳は記憶を消したがる」(フォレスト出版,2013)
    「死ぬのが怖いとはどういうことか」(講談社,2013)
    「幸せのメカニズム-実践・幸福学入門」(講談社現代新書,2013)
    「システム×デザイン思考で世界を変えるー慶應SDM「イノベーションのつくり方」」(日経BP,2014)
    など多数。
  • NECネッツエスアイ参加者
    牛島 祐之   代表取締役執行役員社長

対話の内容

「幸せ」をテーマにしたコミュニケーションの重要性

(牛島)
現在の自分の幸福度を知るため幸福度診断Well-Being Circle(※)実施したところ、総合得点が78.9点でした。ストレスが少し高くなっていますが、全体的に平均より上回っていました。
※幸福度診断Well-Being Circle:前野氏と株式会社はぴテックが共同開発した幸福度診断サービス(https://www.lp.well-being-circle.com/

(前野氏)
全体的に高いですね。非常に幸せなのだと思います。

(牛島)
最近、幸福論やwell-beingに世の中の関心が集まっているように思えますが、その背景について教えてください。

(前野氏)
一つは、「幸せな人は生産性が1.3倍高い」「創造性が3倍高い」「寿命が7~10年長い」「欠勤率や離職率が低い」といった学術的なエビデンスが分かってきたことによります。社員や経営者、お客さんが幸せであるということが社会をよく回すために必要だということがわかってきたんです。
 もう一つは、環境問題や貧困問題など様々な問題がある中で、成長による幸せだけでなく心の豊かさも目指していかなければいけないという世界的な風潮になっています。特に日本は少子高齢化も進んでおり、心の豊かさ、幸せ、健康を考慮する社会にシフトしていくことがいろいろな分野で指摘されています。
 現在、新型コロナウイルス感染症の流行により先が読めない状況にあり、コロナが現代社会の課題をより強烈に加速する装置になってしまっています。心の状態が整っていないと不安になり、新しいことへのチャレンジも躊躇してしまいます。しかし心の状態が整って活き活きしていると、新しいアイディアも生まれ、コロナに打ち勝つ新たなチャレンジもできるのだと思います。

(牛島)
そのようなエビデンスをもとにしているわけではありませんが、私はさまざまな場面で社員に向けて「幸せ」という言葉を発信しています。特に私たちのビジネスでは新しいものを生み出す活動が不可欠で、その前提には社員自身の幸せがあると感じています。当社ではマテリアリティにも掲げているように、社員のwell-beingを重視しています。
 コロナ禍で社員と話す機会が減ったこともあり、全国の拠点とビデオ会議でつなぎランチミーティングを行っています。ランチを食べながら、仕事から離れてさまざまな話をしているのですが、必ず「今の幸福度は何点ですか?」と聞くようにしています。社員自身も言葉に出して初めて気づくことがあるようで、「あと何があれば100点になるか?」「それなら、これに向かって何かできそうだね」と前向きな話になります。
 また当社は2019年10月から本社を縮小し、自宅から30分圏内の首都圏7カ所のサテライトオフィスなどで分散して働く「分散型ワーク」を開始しました。通勤で疲弊しきった社員にアイディアを出せ、イノベーションを起こせと言っても目の前のことをこなすので精一杯なので、「通勤時間を減らし、人らしく生活する中でこそ、個人が持っている本来のパフォーマンスが発揮できるのではないか」というアイデアが出ました。家庭や通勤、趣味、彼氏・彼女の問題など、well-beingに関係していることは仕事以外にたくさんあり、そこに会社としてアプローチしなければいけないと感じています。

(前野氏)
すばらしいですね。幸せのためにはコミュニケーションが大事なんです。人は一人では生きられないのでコミュニケーションすると幸せになりますが、コロナ禍では会社によってはコミュニケーションが分断されて孤独になり、不幸になっている。一方で、コロナ禍でもオンラインでコミュニケーションすることで幸せになったという会社もあります。
 もう一つは、幸せについて尋ねると「そもそも幸せって何だろう」と大きな視点に立てます。人間は、視野が広いと幸せになり、視野が狭いと不幸せになります。社長が積極的に幸せをテーマにコミュニケーションすることは、もっとも幸せになる活動だと思います。こうして幸せの大切さを直感として気づかれている経営者というのはすばらしいと思います。

前野隆司氏

 Well-Being Circleのように幸せ度を可視化することはメリットがあるのですが、楽観的な人は高めにつけますし、自信のない人は低くつける傾向があるので、健康診断ほど精度がないのが現状です。私もいろいろな会社を見ていますが、本当に幸せな会社は幸福度診断に頼らず、社長が実際に朝礼などで全員の顔を見て、幸せかどうかを測っています。社員とのランチミーティングを繰り返していると、次第にその社員が幸せかどうかわかるようになってきて、最近はどうしているのか、もしかしたらちょっと調子が悪いのではないか、ということがわかる感度が高まっていくと思います。

(牛島)
そうですね。私というより、会社のみんながわかり合えるようになるといいのだろうと思います。

(前野氏)
その通りです。幸せな会社というのは、社長だけでなく社員同士のどのコミュニケーションにも深みがあって、幸せや困りごとを含め深い対話ができているのです。

チャレンジと感謝

(牛島)
私はwell-beingの中でも特に「当社らしく思い切りチャレンジする」「感謝する」の2点を重視して、社員に向けて発信しています。
 「当社らしく思い切りチャレンジする」というのは、先にお話したように会社が新しい価値を生みだしていく上で欠かせない要素であり、社員自身もチャレンジすることでワクワクでき、うまくいった時の喜びは何にも替えられないものです。仕事の楽しみはそこにあるのではないかと思っています。
 「感謝する」については、いま社内で、社員同士で感謝の言葉を贈るという「ほめ活」を進めています。感謝されるのはうれしいことですし、自分がうれしいと思うことを人にできるかどうかは幸せの原点だと思うのです。
こういった“当たり前”のことが当たり前にできるようになれば、本当に居心地のいい、自然体のよりよいコミュニケーションが生まれ、イノベーションやチャレンジするためのエネルギーが沸いてくるのではないかと思っています。

(前野氏)
私が分析した結果として、幸せの4つの条件「やってみよう因子」「ありがとう因子」「なんとかなる因子」「ありのままに因子」のうち、「やってみよう因子」「なんとかなる因子」「ありのままに因子」は“チャレンジ”ということです。何かやってみよう、何とかなると信じてリスクがあってもやってみよう、ありのままに新しいことにチャレンジしてみようということです。もう一つ、「ありがとう因子」は“感謝する”ということですから、社長が重視している“チャレンジ”と“感謝”は幸せの4つの条件そのものと言えます。

前野隆司氏資料

前野隆司氏資料より

幸せの前提となる「対話」「コミュニケーション」

(牛島)
当社の社員は5,000人以上いるので、現在社員との対話の時間は全体の1/3から半分くらいを占めているのですが、それでも足りないくらいです。

(前野氏)
幸せな会社は何百人以下の規模であることが多いですのですが、御社の場合は規模が大きいので、社長が5,000人全員とランチミーティングするわけにはいかないですよね。社長だけではなく、部長も課長もみんなが対話すれば大企業でも幸せになれると思います。

(牛島)
それから、幸せにはいろいろな要素があり、会社として力を出してあげられるところと、自分で解決していくべきところと両方あります。会社も100点、個人も全員が100点ということはなかなか起こり得ないことを理解した上で、幸せになることに全員でチャレンジできるといいと思っています。

(前野氏)
おっしゃる通りです。「会社に幸せにしてもらおう」なんて思っていては幸せにはなれません。主体性が幸せに寄与するので、全社員が社長の思いを理解すれば可能だと思います。ただ、その理解浸透が非常に難しいとは思います。大事なのは、会社の理念や社長のメッセージとして「みんなで幸せになるんだ」ということをどんどん発信して、コミュニケーションをとっていくということではないでしょうか。御社は「日本一コミュニケーションのよい会社」を目指していますし、コミュニケーションのよい会社にしようと思うこと自体、私には「幸せな会社にしよう」ということと同義語に見えます。

(牛島)
すべての原点にある解決手段がコミュニケーションではないかと思っています。

(前野氏)
その通りです。コミュニケーションといっても、議論と対話では異なります。議論は、どちらが正しいかをロジカルに詰めるもので、もちろん大事なことですが、幸せな職場をつくるためには対話が必要です。ウィリアム・アイザックス氏は対話の4つの要素を「傾聴する(リスニング)」「尊重する(リスペクティング)」「保留する(サスペンディング)」「声にする(ボイシング)」だと述べています。この4つを満たす対話ができるようになってから議論(ディベート)すべきであって、人間関係ができていないうちにディベートすると、議論が苦手な日本人は「あなたの意見は間違っている」と言うことが人格攻撃と誤解しやすい傾向があります。
 逆に言うと、きっちりした対話の土壌をつくって信頼関係ができた上でなら、上司からの指摘も「自分の成長のために言ってくれているんだ」とわかり、多少荒い言葉になっても大丈夫だという側面があります。対話して人間関係をつくるというコミュニケーションのやり方を身につけることが大事だと思います。

(牛島)
当社の文化かもしれませんが、相手の言うことをしっかり聞いてその通りにやるということには強いのですが、もう少しおたがいの意見を言い合えるコミュニケーションが必要だと思っています。

(前野氏)
リスニングはできているけれど、会社の業態的にボイシングが弱いということはあるのかもしれませんね。発言の練習をするということが一つと、もう一つは、昨今変わりつつありますが日本企業は元々ピラミッド型で、上が下に命令するものだという文化があり、上下関係のない対話を心がけて心理的安全を確保することが大事だと言われています。

(牛島)
心理的安全性という意味では、「発言しても大丈夫だよ」ということをさらに伝えていかなければいけないと思っています。そこが変わると、さらにいろいろなチャレンジができ、イノベーションも生まれるだろうと思います。

社長 牛島

(前野氏)
そうですね。失敗してもほめられ、むしろミスが賞賛され、チャレンジしたことが査定の対象になる等、思い切ったことをされている会社もあります。発言することが評価される仕組みを取り入れていくことも必要かもしれないですね。
 社員に「幸せになれ」「発言しろ」と言うとトップダウンになってしまうので、意見を言いやすい環境を作り、社員が主体的に動くようになるまで待つしかないと思います。幸せな会社はどこも、社長は最初待っていて、何年かするとやっと社員がついてくるという状況です。ですから最初は信じて待つ。はじめは何も起きないように見えるのですが、徐々に会社は変わっていき、その後はぐんとよくなっていきます。御社も場づくりはすでに始まっていて、あとは社員自身が少しずつ自分から変えていく、みんなで変えていくという段階にあるのだと思います。

幸せをイノベーションにつなげるには

(前野氏)
「幸せな社員は創造性が3倍になる」というデータのように、幸せになればアイディアは3倍出てくるわけで、そこからイノベーションが起きるはずです。例えば、社員が幸せな会社では、朝礼で対話しながら全員が今日一日の改善点を1つずつ見つけてから仕事に入る。こうした日々の改善の積み重ねが世界最高品質やイノベーションにつながります。

(牛島)
当社も現在、ニューノーマルの新しい時代の働き方にチャレンジしていますが、途中であきらめることなく徹底的にやることが大事だと思っています。課題を乗り越えることの繰り返しの中で本当のイノベーションが生まれるのではないかと思います。

(前野氏)
おっしゃる通りで、幸せ感というのは徹底的にやることから生まれます。1万時間やると世界のトップに出られるという「1万時間の法則」というものもありますから、コツコツ続けることで他社とは違うイノベーションの種が生まれてきます。働くということは、幸せだ、喜びだと思いながら真剣にやりつづけるということだと思います。

(牛島)
私は実は毎日ワクワクだらけです。中期経営計画の中で描いたプランが少しずつ形になってきており、その価値をどこまで高められるか、とてもワクワクしています。仕事自体が楽しく、幸福感を持って取り組めているのではないかと思います。

(前野氏)
「幸せはうつる」という研究結果もありますが、一番発信力のある人がワクワクしていると、それがみんなに伝わってみんなもワクワクしてきますし、社長が「もうだめかもしれない」と思っていたらそれが伝わりますから、社長が「ワクワクしていることだらけ」というのはすばらしいですね。
 社長ご自身は、元々チャレンジするタイプの性格でしたか。

(牛島)
はい、どちらかというとそういうタイプでした。言われたことを言われた通りにやるというより、自分のしたいことをして、ましてそれでほめられたり感謝されたりしたら、とてもうれしいですよね。そこに生きる原点があるような気がします。人は誰も、人を楽しませたい、人に喜んでもらいたい、あるいは感謝されたいと願っているのではないかと思います。

(前野氏)
組織の中では、社長のような思いの人もいれば、「~ねばならない」に押さえつけられてワクワクできない人もいると思います。社長がワクワクする思いを社員にどんどん発信していけばいいのではないでしょうか。

(牛島)
いま当社では社員の発案で「Ushijimaラジオ」という社内ラジオ放送を実施しており、そこで私のワクワクを伝えるようにしています。ただ発信するのではなく、ラジオ形式など伝え方を一工夫することで楽しみながら受け止めてくれるのではないかと思います。



(牛島)
先生のお話をお伺いして、well-beingの意味を深く理解することができました。この対話は社員にとっても幸せへの一つの入り口になるのではないかと思います。ありがとうございました。

(前野氏)
今回対談させていただき、社長がランチミーティングなどを通していろいろな人と会ったり、チャレンジや感謝が大事だとおっしゃっていたり、私が研究してきた幸せの条件をどんどん推進されていると思いました。あとは社員の皆さんが、主体的に「自分が幸せになるんだ」「みんなを幸せにするんだ」と思えるようになると幸せになれます。場はもう整えてもらっていると思いますから、あとは皆さんでコミュニケーションを取って幸せになり、そして日本を幸せにしていっていただければと思います。

前野氏 牛島

社外取締役からのコメント

NECネッツエスアイ株式会社 取締役 村松邦子
(株式会社ウェルネス・システム研究所 代表取締役)

米国では1980年代から従業員のwell-beingと企業業績に関する分析や実証が進んでおり、先進企業は社員エンゲージメントの一環として、様々なwell-being施策を展開しています。
 日本においても、前野先生をはじめとした専門家の方々からの提唱により、企業経営の課題としてwell-beingが語られるようになってきました。牛島社長が実践している全国拠点とのランチミーティングなど、現在社内で実施している社員との対話やコミュニケーションは、前野先生の研究結果に沿った、幸せ・well-beingを向上させる取り組みとも重なっており、とても良い方向性であると思います。
 いま当社に必要なことは、社長自身も課題として認識していることですが、経営陣が「社員の幸せ」を本気で考えリーダーシップを発揮していくことと、社員の主体性を育んでいくことだと思います。社員自らの意思で立ち上がったコーポレートカルチャーデザイン室の取り組みなど、すでに実践していることも多くありますが、今後も積極的に社員起点で、ワクワクしながらチャレンジできる機会を作っていくことが大事だと考えています。会社としては、well-being向上へ向けた機会や環境を整え、社員一人ひとりが、自分自身や他者のwell-beingについて自覚し、考え、行動していくことを期待しています。
 当社は2007年から働き方改革を実践しており、昨今は分散型ワークなど、つねに新しい働き方にトライしています。ICTソリューションによりさまざまな可能性が広がる中、例えば、「働き方×DX×well-being」をテーマに、自社実践の効果を可視化し、多様なステークホルダーとの社会連携を進めるなど、自社の強みを活かしてソーシャル・イノベーションをを志すことが、個人・組織・社会の幸せにつながっていくのだと思います。