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2024年12月
航海のはじまり
Report:Koki Nakata
場所:しらせ
第66次隊の中田 康貴氏が、しらせから現地の様子をレポートしてくれました。
中田氏レポート
航海のはじまり
南下
しらせは12月11日に南緯40度、12日に45度、13日に50度を通過し順調に南下していきました。南緯40度~60度が暴風圏になりますが、出港当日のような高波はなく海は落ち着いていました。その間、ランニング等の艦上体育に励む隊員もおり、私も縄跳びで体を動かしました。跳ぶたびに船の傾きも着地点も変わるので、陸地よりも疲れやすかったです。航海中は、昭和基地での夏作業に向けた荷物の準備や、さまざまな講習の受講など、やるべきことがいくつもありましたが、このように体を動かして余暇を過ごすこともありました。船外に出られないときは、ボードゲームなどの遊びを通じて隊員同士のコミュニケーションを深めることもありました。
12月14日
南極地域へ
14日の朝に南緯55度を通過しました。南極観測隊は南緯55度以南を南極地域としています。艦橋には通過日時が記載されたボードが掲示されており、多くの隊員がボードと一緒に記念撮影をしていました。
しらせの船内
この日は砕氷艦「しらせ」(注1)の機関科による船内ツアーがありました。推進装置に電気を届ける発電機や、それを回すためのディーゼルエンジン、ボイラーや造水装置等の設備について実物を見ながら説明をうけました。観測隊員が生活する船室の下層にこのような設備が常時稼働していること、それを保守・運用しているしらせの乗員がいることを改めて認識し、南極観測が多様な協力で成り立っていることを実感しました。
- (注1)砕氷艦「しらせ」について
12月15日
海洋観測
南緯40度から5度刻みで観測隊による海洋観測が行われています。15日の日曜日は講習がなかったため、ヘリ甲板からそれを見学しました。投下した観測装置を回収するべくウインチを巻き上げている間も、凍えるような風が吹きつけていました。観測隊員としらせの乗員はそんな中をじっと待っており、周囲には風と波の音と、深度を読み上げる大きな声が時折響いていました。
◯◯らしきもの
正午まえに「氷山らしきものが見える」というアナウンスがあり、昼食時間の公室は一層賑やかになりました。昼食後、氷山がよく見える艦橋と、艦橋の上層にある06甲板は観測隊員としらせの乗員で賑わいました。
幅240m、高さ40mにもなるそうです
しらせ乗員との交流
この日から、観測隊経験者の隊員の勧めもあって、電気整備室で電気員の方々とはんだ付けの電気工作を通した交流を初めました。しらせや南極観測について貴重な話を伺うこともでき楽しいひとときでした。
さまざまな形の氷山
氷山
氷山初視認の翌々日の17日、100m級の氷山が多数ある中を航海しているというアナウンスがあり、若干の緊張を覚えました。艦橋に上ってみると、確かに多数の大小の氷山を望むことができました。
艦橋の乗員はそれら一つ一つの位置を確認しながら、穏やかな海を縫うようにしらせを進めていきました。水平線にあった巨大な氷山があっという間に近づいてきては、それを横切っていく様子はいくら見ても飽きませんでした。乗員の方から、この氷山はアメリー棚氷(注2)から流れてきたもので、今日その一帯を抜けるともうこのような景色は見えなくなるだろうと教えていただきました。
- (注2)アメリー棚氷について
日没と時差
数日航行後
南緯60度を真西に数日航行した後、昭和基地に向けて徐々に南よりに進むようになると、日没の時間は更に遅くなりました。19日の時点で日没は23時過ぎになり、また日本との時差も更に伸びていき、日本国内とのコミュニケーションに難しさを感じるようになりました。
海鳥
紹介
航海の間、いくつかの種類の海鳥を見かけましたのでご紹介いたします。
流氷域進入
リュツォ・ホルム湾の流氷域
21日曇り。朝食から少しした頃、リュツォ・ホルム湾の流氷域が見えたとのアナウンスがありました。昭和基地がある東オングル島は、このリュツォ・ホルム湾にあります。流氷縁まで〇〇ヤードというアナウンスが繰り返される中、隊員は船首や06甲板に集まってそれが近づくのを待ちました。流氷域に侵入すると、早速アザラシやペンギンの姿が見えました。
昼過ぎになり雲間から日が差すようになると、流氷に反射した光が眩しく、船窓のカーテンの隙間から外を覗くと、目が眩むほどでした。流氷域に入ると、それまでの波の揺れとは異なるガタガタという小刻みな振動や、流氷を押し分けるゴゴゴゴッという揺れが伝わってきました。
野外糧食配布
糧食割り当て
流氷域に入ってまもなく、野外糧食の配布を行いました。しらせの常温・冷蔵・冷凍の倉庫に保管されていた糧食を隊員総出で公室に運び出し、観測チームごとに分配し再度倉庫に保管します。夏期間に多数のヘリオペを行う測地チームは特に多くの糧食が割り当てられていました。多目的アンテナ担当隊員は例年、宙空モニタリング観測の支援をしており、夏期間は西オングル島での観測支援(注3)を行います。
- (注3)西オングル島での観測支援について
ラミング航行
24時間体制
流氷域に入った21日からラミング航行(注4)が行われており、乱氷帯に入った22日夜の時点で100回を超えたという連絡がありました。ラミングは24時間体制で行われ、ゴゴゴゴッという船体が擦れるような揺れや、行き止まったときの前につんのめるような揺れが続くなか眠りにつきました。
- (注4)ラミング航行について
ヘリオペ準備
ASヘリ搭乗訓練
22日、夏期間のヘリオペに備えASヘリの搭乗訓練に参加しました。66次隊は大型のCHヘリと小型のASヘリを運用してヘリオペを行います。先述の西オングル島へはCHヘリで向かいますが、地圏モニタリング(注5)の支援業務ではASヘリに搭乗して観測機器の保守に向かいます。訓練では、観測隊の参加経験が豊富なベテランパイロットのもと、どの方向から機体に近づけばよいかといった危険事項に関する説明や、ドアの開け方、乗り降りのコツ、シートベルトやヘッドホンの付け方、荷物を積むカーゴの種類などの説明を受けました。天候の急変もあり得る現地の作業において、ヘリコプターの乗り降りはスムーズにこなせる必要があります。説明の後は、現地を想定した防寒着の格好で搭乗体験も行いました。
- (注5)地圏モニタリングについて
乱氷帯進入
乱氷帯
23日、一昨日流氷域に入り、前日にその乱氷帯に入りました。流氷域と比べて氷山が密になり景色が様変わりしました。
講習
HFアンテナの組み立て訓練
24日は、通信担当隊員の指導の元、無線通信用のHFアンテナの組み立て訓練をヘリ甲板で実施したり、野外観測支援担当隊員による野外調査における安全対策に関する講習をうけたりしました。25日は、車両担当隊員による昭和基地でのユニック車の取り扱いの説明をうけたり、輸送担当隊員から荷繰りについての説明をうけたりしました。なお例年、多目的アンテナ担当の隊員は、昭和基地での業務に備え、国内での訓練として高所作業車や建設機械などの重機の資格を取得します。
定着氷縁着
黒い水面
26日、公室で朝食をよそい席についたあと、ふと船窓から外を覗いてみると穏やかな黒い水面が広がっていました。
それを見て、ラミングが終わったこと、船が停止していること、つまり流氷域を抜けたことに気がつきました。朝食を食べている間に流氷域を抜けたことと、定着氷に縁着する予定時刻についてアナウンスがありました。定着氷とは、海岸に接して定着している氷のことで、そこに縁着するということは、昭和基地がある東オングル島まであと僅かであることを意味します。
船首に隊員が集まる中、しらせは船首散水装置から散水を行いながら定着氷に縁着。流氷域とは異なるグラグラグラという方向の定まらない小刻みな揺れの中、しらせは止まることなく進み続けました。これまでとは違う揺れに、難所を抜けたことを実感しました。
前日
昭和基地入りを控え
翌日に昭和基地入りを控えた27日、停止したしらせの船首から東オングル島を眺めていると、その島の上に広がる雲だと思っていた青白い帯が南極大陸であることに気づきました。南極のスケールの大きさに驚かされた印象的な瞬間でした。
昭和基地入り当日
居室の清掃や最後の荷造り
昭和基地入りのためのCHヘリは複数の便に分けて運行されました。各隊員は自分の便の時刻までに、居室の清掃や最後の荷造りを行い、また荷物を含めた一人あたりの重量が定められているため、事前にその計測も行いました。時刻になると、同乗する隊員と共に格納庫に向い、しらせの乗員の指示のもとCHヘリを待ちました。しばらくすると、ブレードが風を切り裂く音とエンジンが出す轟音とともにCHヘリがやってきました。着陸時のダウンウォッシュはとても強く、みな腰をかがめ顔を下に向けてやり過ごしました。着陸しそれが弱まると、整備士や見送りに来てくださったしらせの乗員に見送られながら搭乗しました。まもなくCHヘリはふわりと飛び立ち昭和基地へ向かいました。
以上