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2022年7月
VLBI観測について

Report:Kazutaka Mitsuno

場所:昭和基地

第63次隊の光野 和剛氏が、昭和基地から現地の様子をレポートしてくれました。

光野氏レポート

VLBI観測について

私の越冬隊としての任務は「多目的アンテナの運用・保守」です。
昭和基地には、観測に必要となる衛星データを受信するための多目的アンテナが設置されています。直径11mの巨大なアンテナです。大型アンテナはレドームと呼ばれる黒い球体で覆われており、ブリザードのような暴風から守られています。
滞りなく観測が継続できるよう、アンテナの正常稼働に向けて日々メンテナンスを実施しています。

11m大型多目的アンテナ_01


11m大型多目的アンテナ_01

11m大型多目的アンテナ_02


11m大型多目的アンテナ_02

11m大型多目的アンテナを収容しているレドーム


11m大型多目的アンテナを収容しているレドーム

多目的アンテナを活用した昭和基地での観測のひとつにVLBIがあります。
VLBIとは、Very Long Baseline Interferometry(超長基線電波干渉法)の略で、天体からの電波を利用してアンテナの位置を測る技術です。数十億光年離れた天体が放つ電波と非常に正確な時計を用いて、地球上の離れた地点にある複数のアンテナが電波を受信する時間差を計測することで、数千キロメートルも離れたアンテナ間の距離をわずか数ミリメートルの誤差で測ることができます。
ほぼ一月おきに、世界の複数地点で同時にVLBIのための同時受信キャンペーン観測が実施されます。昭和基地もこのキャンペーンに参加しており、63次隊では、割り当てられた星々からの電波を24時間にわたって順番に受信していく作業を10回程度実施する計画で、この7月にはその半分となる5回目を実施しました。

VLBI観測のイメージ


VLBI観測のイメージ

VLBI観測の様子


VLBI観測の様子

上記での観測はアンテナや受信装置が正常に作動しているかを24時間モニターして、エラーが発生した場合に即座に復帰できるように、つきっきりの作業となります。

VLBI観測の原理は以下の通りです。

  1. はるか遠くにある天体(クエーサー)が放った電波が、長い年月をかけて地球に届きます。この微弱な電波を、いくつかのパラボラアンテナで受信します。
  2. アンテナの位置によって天体からの距離がわずかに違うため、アンテナが電波を受信する時刻も少しだけ(0.02秒以下)違います。このため、それぞれのアンテナで電波を受信した時刻を非常に正確な時計を使って測っておきます。
  3. それぞれのアンテナで記録した時刻を比較して、電波を受信した時刻の差を割り出します。この時刻の差を「遅延時間」と呼びます。
  4. 遅延時間に電波の速さをかけ、天体の方向を考慮することでアンテナ間の距離が分かります。
  5. このような観測をたくさんの天体に対して行い、アンテナ間の位置関係を求めます。数千キロメートル離れたアンテナの距離も、わずか数ミリメートルの精度で測ることができます。

VLBI観測の原理

VLBI観測の原理


VLBI観測局は世界中に点在していますが、南半球が少ないため、昭和基地での観測結果は非常に有益なデータとなります。

世界中のVLBI観測局(引用:国土地理院)

世界中のVLBI観測局(引用:国土地理院)


継続してVLBI観測を実施することにより、アンテナ間の距離が年々近づいているか遠ざかっているかの傾向をつかむことができます。下図は昭和基地とオーストラリア(Hobart局)間[左]と南アフリカ(HartRAO局)間[右]の傾向を示していますが、いずれも遠ざかっていることが分かります。

左:オーストラリア間の距離、右:南アフリカ間の距離(引用:国土地理院)

左:オーストラリア間の距離、右:南アフリカ間の距離
(引用:国土地理院)


VLBI観測成果の一例として、世界中の観測局のデータを集計することにより、プレート運動がどのように進行しているかを知ることが可能になります。

VLBIで明らかにされたプレート運動(引用:国土地理院)

VLBIで明らかにされたプレート運動(引用:国土地理院)


※ 掲載協力:国立極地研究所