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2022年2月
越冬交代式とローカル5G実証実験

Report:Kazutaka Mitsuno

場所:昭和基地

第63次隊の光野 和剛氏が、昭和基地から現地の様子をレポートしてくれました。

光野氏レポート

越冬交代式とローカル5G実証実験

業務引継ぎ等で慌ただしかった1月があっという間に過ぎ去り、2月1日の越冬交代式を迎えました。越冬交代式をもって昭和基地の運営が前次隊である62次隊から我々63次隊に正式に引き継がれます。越冬交代式では、「昭和基地」の看板がある19広場の前に62次隊と63次隊が向かい合って横一列に整列し握手を交わすことが恒例となっています。1年間昭和基地を守り抜いた62次隊の労をねぎらい、これから頑張れと63次隊を激励する両隊の姿がとても感慨深かったです。

その後、62次隊は帰路につき南極観測船「しらせ」行きのヘリコプターに乗り込みます。彼らの達成感・充実感で満ち溢れていた表情が非常に印象的でした。最終便のヘリコプターが飛び立つと63次越冬隊の32名のみが昭和基地に残されます。活気があった夏期間から一転して、昭和基地が静寂に包まれるようなイメージを持ちました。いよいよ1年間の越冬生活がスタートするという決意を新たにしたことを鮮明に覚えています。

越冬交代式で戸塚隊員と


越冬交代式で戸塚隊員と

62次隊のお見送り


62次隊のお見送り

私のミッションの1つに「ローカル5G実証実験」があります。これは国立極地研究所とNESICが産学連携共同研究という形で進めているプロジェクトであり、将来的な昭和基地スマートシティ化を目指している取り組みです。

昭和基地は32名の限られた人数で運営されているため、業務面・生活面いずれにおいても他の隊員との連携や協力が必要不可欠です。また、隊員ごとに活動エリアが異なる上、天候等の急変により突発的な対応が求められることもあるため、迅速な連絡手段の確保が重要となります。

2004年にインテルサット衛星通信設備が設置されて以降、インターネットの利用が可能となり、基地主要部の屋内ではWi-Fiも使えるようになっています。その一方で、屋外では簡易無線(CR)やUHFなどの無線トランシーバーがほぼ唯一の通信手段となっていますが、以下のようなデメリットが考えられます。

  • 会話内容が隊員全員に届くため、個別の連絡には向いていない(長時間占有できない)
  • 相手が応答できない状況では連絡が取れない
  • エリアによっては電波が入り難い場所がある
  • 連絡手段が音声のみである
  • 無線トランシーバーの携帯(持ち運び)が不便

上記のデメリットを解消するため、屋外でもインターネットが利用できるよう通信エリアの拡大を目的として、63次夏期間中にアンテナを設置してデータ通信環境の整備に取り組みました。同時に、情報共有がスムーズにできるよう電話やチャットなどの共通のコミュニケーションツールをインストールしたスマートフォン端末を隊員全員に配布しました。

これらの施策により、従来は「相手の都合が良いタイミングに音声通話する」ことだけに制限されていた伝達手段が「いつでもどこでも好きなタイミングでデータ通信できる」ように劇的な変容を遂げ、隊員たちからは早速「便利になった」との反響が出始めています。相手に合わせることなく自分のペースで仕事ができるため時間を有効活用でき、音声だけでは伝わり難い内容についても文字や映像を加えることにより正確に伝えることが可能となりました。他の隊員との意思疎通が図りやすく連携がスムーズになり、屋外でも資料閲覧やインターネット検索ができるなど作業効率性の大幅な向上につながることへの期待が大きいです。今後もさらに、一年間の越冬生活を通じて、より有効な活用方法を模索して実践していきたいと考えています。

将来的には、「位置情報を活用した非常時における隊員の安否確認」や「IOTを活用したドローンや重機の自動制御」などに応用することにより南極地域観測の高度化実現を見据えています。今回の取り組みが、その第一歩になれば幸いです。

昭和基地の屋外でデータ通信している様子

昭和基地の屋外でデータ通信している様子


【参考】国立極地研究所、NECネッツエスアイ株式会社プレスリリース
南極域で初! 昭和基地でローカル5G実証実験を実施


※ 掲載協力:国立極地研究所